SPECIAL

劇場版Fate/Grand Order
神聖円卓領域キャメロット-Paladin; Agateram-

鶴岡聡(アーラシュ・カマンガー役)
×田中美海(ニトクリス役)
スペシャル対談

さまざまな視点を通して描く
円卓の騎士たちの物語

  • ――――まずは『劇場版Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット-Paladin; Agateram』(以下『後編』)の完成映像をご覧になった感想をお聞かせください。

    鶴岡聡
    (以下『鶴岡』)
    『劇場版Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット- Wandering; Agateram』(以下『前編』)のラストで、アーラシュは自らの命を賭して、獅子王が放った聖槍の一撃からベディヴィエールや山の民たちを守りました。きっと千里眼の力で、ベディヴィエールの命をここで絶やしてはいけないことを見抜いていたんでしょう。そして「たとえ自分が死んでも後に繋がる命がある」「まだお前の旅は終わりじゃないぜ」ということを、身をもって示したんです。『後編』はそうした結末からのスタートだったので、ベディヴィエールもまだ迷いを捨てきれていないようでした。もしもアーラシュがそんなベディヴィエールを見守っていたとしたら、「存分に悩め」って言うんじゃないかな。悩んで悩んで、気持ちをひとつずつ整理して、最終的に見出した答えこそが「お前」なんだぜ、と。辛く苦しい旅かもしれないけれど、苦悩の末に出す答えにこそ価値がある――。『後編』でベディヴィエールが悩む姿を見ながら、ついついそんなことを考えてしまいました。
    田中美海
    (以下『田中』)
    まさにアーラシュが乗り移ったかのようなお言葉ですね! アーラシュは答えを知っていたとしても、すんなりとは教えてくれないと思いますよね。自分自身の力で見出せよ、と。
    鶴岡
    だからこそ、最終的にベディヴィエールがあの結末に至れたのは本当に嬉しかった。そしてアーラシュが放った一矢で、彼の旅にひとつの道を示すことができたことも、誇らしく思えました。それと作品全体の印象としては、『前編』を「静」の作品とするなら、『後編』は完全なる「動」の作品。すべての登場人物たちが「静」から「動」に移り、彼らの生きざまが輝いて見えたのが印象的でした。このインタビューを受ける前に、完成度9割の映像を拝見したんですが、早く劇場の大スクリーンで完成版を観たいです。
    田中
    私は怒涛のサーヴァント同士の対決や、それぞれのドラマにずっと涙が止まらなくて……。ベディヴィエール視点で描かれた作品ではありましたが、今回は円卓の騎士たちのドラマも深く描かれているのが印象的で、それぞれが辛い選択を強いられ、深い葛藤を抱えながら戦っていることが伝わってきました。私も鶴岡さんと同じく未完成版を拝見して、観終わった後は抜け殻のようになってしまいましたが、映画館で観たらきっと席から立ち上がれなくなるんじゃないかと。そのくらい衝撃的な『後編』だったと思います。
  • ――――お二人はどんなところに『後編』ならではの魅力を感じましたか?

    田中
    『前編』では円卓の騎士たちの心情は明かされていなかったためか、冷徹で恐ろしい敵として描かれていました。でも『後編』では、彼らがどんな気持ちで獅子王に仕えているのか、秘めていた内面を激しく、せつなくぶつけてくるところが『前編』との大きな違いだと感じました。
    鶴岡
    『後編』は「動」の作品ではあるんだけど、戦闘シーンのセリフをよく聴いていると、じつは会話劇でもあるんだよね。譲れない思いを剣に乗せて相手に叩きつけると同時に、自分の迷いや葛藤をも断ち切ろうとしているようにも見えて。登場人物たちが声の限りに吠えながら、押さえつけていたものすべてをさらけ出すような戦闘シーンは、本作ならではのものだと思います。人理修復に臨む藤丸たちだけでなく、円卓の騎士たちにもそれぞれの「正義」がある。それが痛いほどに伝わってきました。
    田中
    円卓の騎士はみんな獅子王に忠誠を誓っているんですが、それぞれの思いの形はみんな違うんですよね。こんなにバラバラな人たちをひとつにまとめあげていたアーサー王って、本当にすごい人だったんだなと改めて気づかされました。

オジマンディアスに仕える
ニトクリスの思いとは

  • ――――田中さんは『前編』と『後編』を通じてニトクリスを演じていらっしゃいますが、収録に臨んだご感想はいかがでしたか?

    田中
    『後編』はコロナ禍での収録でしたが、オジマンディアス役の子安(武人)さんとは掛け合いで収録できたのが嬉しかったです。隣で演じている子安さんの存在感と立ち姿がまさに「ファラオ」そのものだったので、私もお仕えしているニトクリスの気持ちになりきって演じることができました。ニトクリスもエジプト史におけるファラオのひとりではあるんですが、自分よりもはるかに偉大なファラオであるオジマンディアスに対する時は、どうしても副官的な立ち位置になりがちです。でも、崩壊していく「複合大神殿」を宝具で護り支えるシーンでは、「この命に代えてもオジマンディアス様と民を護る!」というファラオとしての矜持が垣間見えました。
    鶴岡
    オジマンディアスに対する時と、藤丸たちに対する時とで、全然違う顔をのぞかせるところもいいよね。
    田中
    そうですね。藤丸たちにオジマンディアスからの「届け物」を渡す時も、「ドヤ!」って感じに笑って去っていくところはすごくかわいらしかったです。そして、少しでも藤丸たちの力になるためにやってきたところにも、ニトクリスの優しさが感じられました。
    鶴岡
    『前編』のニトクリスは、偉大なファラオとして振る舞おうとするあまり、少し背伸びしているように感じたんです。その一方でマシュとの湯浴みのシーンでは、ファラオという立場を越えたひとりの女性として、悩むマシュを優しく気遣う姿も見せた。さらに『後編』では、オジマンディアスの有能な副官として立ち回る姿も見せて。2作品を通して、僕の中でどんどんニトクリスの人物像が立体感を増していきました。そして、ニトクリスはいったいどんな気持ちでオジマンディアスに仕えていたのか、田中さんに聞いてみたいと思ったんです。自分もファラオなのに、あそこまで献身的に接する思いとはどんなものなのかって。
    田中
    ニトクリスもファラオではありますが、周囲に祭り上げられて即位して、「自分は未熟なファラオだ」という思いを抱えていました。しかし、自分が生きた時代よりもずっと後の時代に、オジマンディアスという偉大なファラオが現れたことを知って、自分はあまり国に貢献できなかったけれど、彼は歴史に残る偉業を成し遂げ、ファラオとして国と民に大きな繫栄をもたらした。そのことに対する尊敬と感謝の念を抱いていますし、そういった思いとともに、これは私の個人的な思いなんですが、自分よりも後の世代でファラオの血脈を受け継ぐ者に対する「母の慈愛」のような気持ちもあったんじゃないかなと。
    鶴岡
    「母の慈愛」! だからこそ最後の最後まで献身的に仕える姿勢を崩さなかったと。いや、ものすごく納得しました。

戦いの中で交錯した
それぞれが秘めた意思

  • ――――本作は様々な見どころが盛りだくさんですが、お二人が特に気になったのはどのシーンでしょうか?

    鶴岡
    山の民陣営に与していた身としては、やっぱり呪腕のハサン&静謐のハサンとトリスタンの戦いです。特に仲間たちを殺戮したトリスタンに対する呪腕の執念は、凄まじいものがありました。「取ったぞ」という一言には積み重ねた執念が結実していましたし、そうした恨みとは別にトリスタンが磨き上げた技を称賛するという一面も見せた。そんな姿に、思わず「見事なり、呪腕の!」と喝采を送りたくなりましたね。あとは、個人的に円卓の騎士の中ではランスロットが一番好きなので、彼が絡むシーンはどれも好きです。物語冒頭でのマシュとランスロットの絡みで、ダメ親父な一面をたびたびのぞかせるところなんか最高でした。
    田中
    敵であるダ・ヴィンチちゃんを助けたランスロットの「遠目に見ても美女だったので、とっさに」という言葉に対して、マシュの「何を言っているんですか?」というものすごく冷たい返しが、もうおかしくて(笑)。
    鶴岡
    あんなにドン引きしているマシュ、見たことないよね(笑)。そんなコミカルな姿を見せたかと思えば、アグラヴェインとの戦いではお互いに積年の思いをぶつけ合う重たい戦いが描かれて。原作ゲームでは戦いの結果しか描かれていないから、二人がどんな戦いを繰り広げたのか、今まで誰も知らなかったわけですよ。そういう意味でも『FGO』ファン必見のシーンだし、これまで隠してきた本心をあらわにしたアグラヴェインが魅力的に見えるシーンでもありました。
    田中
    私は三蔵ちゃんとモードレッドの戦いを推したいです。原作ゲームでは描かれていない組み合わせなので、とても意外でした。でも、獅子王のためとはいえ、モードレッドは自暴自棄になって自分の命を捨てようとしていましたが、そんな彼女の心が三蔵ちゃんとの戦いでああいう形で救われるなんて……。むしろ三蔵ちゃんが相手でなければ、モードレッドはあんなに晴れ晴れとした最期を迎えることはできなかったでしょうね。それと、ベディヴィエールとガウェインの戦いはとても重たかったです。ガウェインは執拗にベディヴィエールの前に立ちはだかるんですが、円卓の同胞だけでなく、妹のガレスちゃんまでも手にかけているから、後に引けないんですよね。でも、ベディヴィエールもこの事態を引き起こしたのは自分の責任だという思いがあるから、引くことができない。ガウェインの思いに正面から向き合い、乗り越えなければならない。そんなベディヴィエールの強い思いが伝わってくる戦いでした。
  • ――――それでは最後に、『FGO』ファンに向けてメッセージをお願いします。

    鶴岡
    『前編』はなぜ「静」の作品として作られたのか。その理由のすべてを回収した『後編』は、みなさんの期待を確実に上回る素敵な作品となっています。ずっと期待を胸に待ち続けたみなさんの「旅」も、ようやくここで完結するわけです。まだ本編をご覧になっていないという方は、ぜひ劇場で味わってください。アーラシュはもう退場していますけど……(笑)。僕も一ファンとして愛してやまない作品ですので、どうかベディヴィエールの旅を最後まで見届けてやってください。
    田中
    原作ゲームで描かれていなかった部分まで網羅されて、ベディヴィエールはもちろん、いろいろなサーヴァントにスポットを当ててくださった、本当に素晴らしい作品です。『前編』と合わせてご覧いただいて、私たちが感じた感動を同じように味わっていただけると嬉しいです。そして、これからご覧になるという方は、どうかエンドロールの後まで見届けてください。「第六章のラストはこのシーンで締めないと!」というエピローグがありますので!! あれを観たら「『彼』の実装、はよ!!」とみなさん思われるはずですよ(笑)。

写真:大庭元

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